道楽小宴 ミヤザキの蝉 蔵王温泉初出店之記

たまたま蔵王温泉の共同浴場で会っただけ。直感的に「いいひとだ!」と思ったら、その日のうちに出店の運びになりました。

風呂場で会っただけの人に出店を願う方もナニですが、金沢在住にも拘わらずそれをかる〜く受けてしまう方もアレですなぁ、ミヤザキさん

ーうれまちた。少しだけど。ー

 

道楽小宴 ミヤザキの蝉 蔵王温泉初出店

 

スキーヤーの財布の紐は固い。

彼らにとっての至上事項は「1分でも長くゲレンデにいること」と見える。スキーヤーの多くは、素泊まりでカップ麺をすすりつつ1秒でも長くゲレンデに居ることを思考し、志向している様である、という事を今回学んだ。

はっきり言って商売にならない。

 

だが、ミヤザキの蝉には、こういう時の緊急回避がある。それが、オオサンショウウオに見えるが自称トカゲのコイツらである。ウェアが売れなければコイツらを売るしかない。

 

なぜ売れるのか?カワイイからである。

何に使用するかとかはどうでもいいのだ。コイツらを買うヤツらは、まず「カワイイ!」となり、「欲しい!」となる。そしてその後、コイツらの使用目的が無い事に気付くのだ。そこで一生懸命「何に使うか」を考えるが、「欲しい!」と思った時点で8割方買うことは決まっている。

この、「カワイイ!→欲しい!→何に使おう?→買っちゃえ!」の流れを成立させる重要な要素が価格である。ちなみにコイツらは小1000円、大1200円。

「えっ?200円しか違わないの?」

そう、200円しか違わないのだ。

「これはもう大を買うしかない!」

となり、そこでようやくスキーヤーの固い財布の紐も緩むのである。

 

…親子3代が御来店。狙うは孫一点。コイツを落とせば爺さんはイチコロである。俺は爺さんの腕の中で眠っている孫に狙いを定めた。

昼寝から起きたばかりの孫の鼻っ面に必殺トカゲ(小)を突き付ける。

…失敗である。孫は寝覚めたばかりで、外界反応の脳内中枢が起動していない。ボケた様な、幸せな様な顔はしているが、基本的に反応が無い。

 

俺は彼らを暫く泳がせる事にした。とにかく店に長く居させること。そうすると、何となく「買わないと出づらい」雰囲気が生まれる。俺もそれで何度買わされた事か。自腹を切りまくって得たノウハウである。

 

売りたい素振りは微塵も見せず、客達との世間話を楽しむ。そのうちに孫の脳内中枢が徐々に目覚め、外界への反応回路が形成されてきた。孫は爺さんの腕の中で徐々に動き始め、周りの物に言葉を介さない純粋な興味を示し始めた。

こうなればこっちのものである。

 

爺さんは孫の純粋興味を満たすべく、例のトカゲを目の前に持ってきた。緑色の大である。孫はまんまと興味を示し、そして乳幼児が良くやる様に物体の存在を己の口唇で確かめた。 

「あーあ、唾つけちゃった。こりゃあ、買わなきゃならんなぁ。」

爺さんが嬉しそうに言う。孫に買ってやる口実が出来た訳だ。

 

この爺さんは孫用に緑の大、そして自分用に赤の小を購入してくれた。

爺さん自身の中でも密かに「カワイイ→(略)→買っちゃえ!」のプロセスが進行していたのである。

 ふう。やっと¥2,200の売り上げが上がった。

これで軽のワゴンを5時間飛ばしてわざわざ金沢からやってきたミヤザキさんが手ぶらで帰ると言う事態は免れた。

たった¥2,200だが、¥0と¥2,200の間には無限の開きがある。0を無限倍しても0にしかならないのだ。

出店2日目の今日は店舗を2分割し、我々はWorld Cafe Paletteで通りすがりの客を、ミヤザキさんはゲレンデ正面レストランのエントランスで昼食を摂りに来た親子連れスキーヤーを狙う事にした。

何しろ昨日のWorld Cafe Paletteでの売り上げが¥0だったのだ。とにかく客が入らない。入ってもスキーに来てる客は基本的にスキー以外に金は使わない。困ったものである。

 

私は急遽方針を変更し、蔵王温泉じゅうの出店できそうな店舗を廻ってお願いをしまくった。当然断られ続けたが、その途中で良い情報を得た。

この中央ゲレンデよりも車で5分ほど離れた上の台ゲレンデの方が親子連れが多く、買いそうな客も多いだろうという話である。

私は早速2020年型アルトワークス4WDを2速6000回転で飛ばして急坂を登り、上の台ゲレンデの端っこにある「ロッジイザワ」へと向かった。ここは以前ライブ会場を探して駆けずり廻った時に良心的に話を聞いてくれた数少ない店の一つである。

 

サンプル服を引っ掴んで受付に50年前から居る様な佇まいの爺ちゃんにお願いする。

「イザワさん、今金沢から洋服屋を呼んでパレットで売ってるんだけど全然売れなくて困ってるんです。お宅の入り口前で売らせてくれませんか?」

「ウチは別に構わないけど、そこはゲレンデの一部でウチの土地じゃないから、蔵王温泉観光の事務所で聞いてみな。」

「分かりました、ありがとうございます。」

 

俺はサンプル服を引っ掴んだまま、ゲレンデの上を小走りに5分ほど移動して中央ビルの2階にある事務所へと向かった。何しろ早く決めて出店しないとお昼時間が来てしまう。昼食前後の2時間が勝負なのだ。

8割方無理だろうと思いつつ、アポなしコネなし当日直前嘆願という事務局にとっては迷惑千万の依頼をぶつけてみる。財布は薄いがツラの皮だけは厚い。

事務局の部課長クラスと思われる方が対応してくれ、担当者に連絡してくれた。思ったより柔らかい雰囲気で、強い警戒心や拒絶感は感じられない。さすが山形、いい人が多いと少し安心していると担当の方が現れた。いかにもスポーツマンで朗らかな感じの人だ。

 

「ゲレンデに出店するのは全く構わないですが、折角なら今イベントをやっている所か、建物の中でやられたらどうですか?」

私は自分の耳を疑った。いくら山形でもいい人すぎる。こんな都合のいい話があるだろうか?

この様な自分勝手な依頼、にべもなく断られて当然なのだ。それを断るどころかもっと良い場所を提供してくれるという。

「・・・は、はい! ではそのイベント会場でお願いします!」

私は心の中で全力のガッツポーズをとりながら答えた。

 

当日の上の原ゲレンデでは、「はたらく自動車展」として、大型の雪上車等の展示会が行われており、その横で出店できるという。

私はまた下り坂を2速3000回転で下ってパレットに戻り、ヨメにそこを任せて商品の7割方を2台の車に積み込み、ミヤザキさんと共に上の台ゲレンデへと引き返した。いそいそとゲレンデ上にハンガーをセットしていて、ふと気がつく。

 

人がいない。皆昼食を摂りに建物の中へ入っている。

さらに人がいたとして、彼らがここでスキーウェアの中から財布を取り出して買い物をするだろうか?

 

ここはダメだ! 建物の中へ移動しなければ!

私はまた建物の中を駆けずり廻り、正面入り口のエントランスが結構広い事を確認した。ここだ。

事務局へ戻ると既に昼休みに入っており、半分程の社員が残っているだけだった。やばい。

「あのー、先程の者ですが場所の変更をお願いしたくて・・・」

つくづく迷惑なヤツである。事務局の皆様本当にすみませんでした。

 

先程対応して頂いた部課長的社員の方が「良いと思いますが、担当に確認してみますね。」と言ってくれ、先程のスポーツマン殿に電話をかける。

・・・出ない。万事休すか?

「電話に出れない様なので、私が立ち合います。現場へ行きましょう。」

・・・山形の人、いい人すぎる。わざわざ自分の昼休みを潰してまで立ち会ってくれるという。一文の得にもならないのに!

私は心の中で山形の神(そんなの居るかどうか分からないが)に感謝と祈りを捧げつつダッシュでイベント会場へ戻り、ミヤザキさんと道具を持ってエントランスへ移動した。もう昼休みは始まっているのだ。

会場のセッティングが終了し、販売している服に着替え、商品から微妙に離れた所にポジションを取る。近すぎると客が寄ってこないし、遠すぎても対応が遅れる。最良点はそう多くない。

1時間程接客し、売り上げはまだ無かったがその場をミヤザキさんに任せてパレットへ引き返し、トカゲ2匹を売って私の販売は終わった。営業力の無さを痛感する。

結局、全力は尽くしたが2日間トータル売り上げは洋服0、帽子1、トカゲ3という惨憺たる有様だった。

コロナの影響ではなく、純粋に私の企画ミスである。

会場選び、販売方法、客の性質への無知、見通しの甘さ等痛感する。

 

親切なミヤザキさんは、

「コロナの影響でイベントが無くなって家に籠ってばかりいたので、良い気分転換になった。それだけでも来た価値があります。」

と言ってくれ、お互いコロナでの苦労話で同情し合い、次のリベンジを約束して別れた。これからまた5時間車を飛ばして、今日中に金沢へ帰るという。

そして私には新たな野望が出来た。

この魅力的な商品たちを自分の手で売りたい。売る方法は今から考え、半年である程度の成果を出す。物品販売のノウハウも学べるだろう。

何しろ商品がいいので、後は販売力だけの問題である。

 

この服やグッズ達の材料は一流メーカーの端材を使用していて、品質は最上のものである。

材料費が格安なので、このクオリティではあり得ない価格設定をしている。メーカー品だったら軽く倍はするだろう。

そしてこのとてつもなく優しく大らかなデザインは、既に全国に熱狂的なファンを多く獲得している。

さらに今回自分で試着してみて分かった事がある。

この服を着るだけで、なぜか心が落ち着き、幸せな感覚になるのである。これには正直驚いた。

オーバーサイズ気味に作ってあり、ゆったりふんわり優しく体を包み込むその着心地だけが原因ではないだろう。

布や紙というのは不思議なもので、それを作った人やそれに字を書いた人の波動を吸収しやすい、という話を聞いた事がある。

 

この夫婦を見て欲しい。

この写真に、「幸せ」以外の情報があるだろうか?そして本当にこの写真通りの人たちなのだ。

こんな人たちが作る服に、悪い波動など入る訳が無い。

服を着た時の心地良さには、この夫婦の発する暖かい波動が含まれていると、私は信じている。