ホテルぼっち飯の日々

「現地はイオンスーパーのみ」というシバリの中で、いかに充実させるか?

双葉町に来ている。

福島第一原発から6kmの所にある古民家再生プロジェクト、「フクシマと古民家」の取材の為だ。今週から除染が始まっている。ここは原発事故ガラミで興味深い、あえて言わせて貰えばすごく面白くも悲しい事が色々あるのだがそれは本編に譲るとして、今日はホテルぼっち飯のお話。

 

自分にその適性が全く無いことに気付かぬまま、30年近くサラリーマンをやっていた。アホである。現場監督の仕事が多く、出張で1年の半分以上を県外で過ごした年も多かった。ホテルのシングルルームが我が家である。

 

「打ち合わせと違う!」「材料が足りない!」「工期に間に合わない!」工事現場などトラブルの無い日の方が珍しいくらいだ。地獄の様な現場を終えて部屋へ戻ると、そこから翌朝までに昼間のストレスを解消しておかねば明日の地獄に耐えられなくなる。

部屋でやることなど、TVを見ない自分にとっては飯を食う事くらいだ。夕飯に課せられた役割は大きい。余裕があれば近くの居酒屋へ飲みに行くが、余裕など基本的に無いので、スーパーの惣菜でのぼっち飯が基本となる。

 

初期のぼっち飯は失敗の連続であった。

まず食料や飲料を買いすぎる。現場を終えて空腹状態で惣菜の山と向き合うと、普段働きの悪い愚脳が腹と舌に支配され、フルスピードで回転し始める。

腹→舌→愚脳→手→足

と言う神経伝達系統のうちのどこかを断ち切らねば、気がついた時はレジの支払い金額を告げられている事態に陥る。若い頃はこれが毎日続き、部屋の冷蔵庫は3日前の唐揚げとか昨日の漬物とかでぎゅうぎゅうであった。にも関わらず神経伝達サイクルは毎日元気に回転し、部屋の小さなゴミ箱からはプラスチック容器が溢れ、ルームメイクのおばさま達に呆れられたものである。

 

また、出張飯独特の失敗も多い。

典型的なのは、「箸がない!!!」というものである。コンビニでは必ず箸を付けてくれるが、地方のスーパーなどは申請しないと付けない事も多く、「日頃いかに箸のお世話になっているか」を何度痛感させられたか分からない。こんな時の裏技は、カップラーメン自販機の箸を恒久的に借用したり、食堂が付属したホテルならばフロントに頼んで割り箸をもらえたりするが、どうしても手に入らない場合も多い。

こんな時の惨めさといったらない。特にカレーや麻婆豆腐などGEL状の物を買ってしまっていたら悲惨である。

インド人は「我々は舌だけでなく、右手でも食べ物を味わうのだ」と言うが、「お箸の国の人」(ここで笑った女性には歳を聞いてはいけない)である自分は手で物を食べていると人間から一つ後退した動物になってしまった気がして、格別の惨めさを味わったものだ。

 

想像してみて欲しい。

「ホテルの部屋で男一人で飯を食べている」のは、むさ苦しいという点を除けばまあ普通の映像である。しかし、「ホテルの部屋で男一人が手で飯を食べている」という映像は、たった2文字入っただけなのに、ホテルに突如現れたネアンデルタール人の映像みたいになってしまう。

私の鞄には今でも常に割り箸が2膳入っている。車の灰皿に入れた現金と同じく、1年に3回はこの箸に救われている。

2膳入っているのは同行者がいる場合もあるため。

またプラ製フォークはデザートなどに使用。

ケーキを箸で食べる悲惨さを味わってから私の鞄ストックに加わる様になった。

 ないないシリーズの次点は「醤油がない!!」というものだ。これは流石に食堂付属のホテルでも貸してもらう事はできず、禅僧にでもなった気分で「無味の味」を味わうしかないが、刺身を買ってしまった場合は厳しい選択を迫られる事になる。出張歴30年の私でさえも本日この失敗を犯してしまったが、そこは年の功でなんとか切り抜けた。醤油の小パックを鞄に入れるのは流石にリスクが大きすぎる。

 

ないないシリーズ第3位は「器がない!」という事だがこれは比較的解決が容易である。惣菜のパックをそのまま器にすれば良いし、パックの蓋も立派な器として使えるものも多い。しかし場合によってはどうしても醤油皿とか取り皿が必要な場合もあり、この時は部屋の備品の茶碗とか茶碗皿、さらにはそれらが入っている小さなプラ製のトレーなどが活躍する事になる。

 

しかし、パック容器から直接食べるのは何とも味気ない。出張に慣れてきた頃には、私は自分の食器数点をホテルに持ち込む様になっていた。これで食卓の殺風景さは緩和され、人間らしい(?)温かみが加わって和み度が格段に上がった。だがこのテクニックは危険も多く、お気に入りの皿をルームメイクのおばさまに割られてしまったり、輸送中に割れたりするケースもあった。何より食べ終わったらいちいち洗面所で洗うのが手間である。しかし、「器と盛り付けも料理の一部である」と考えている快楽主義者の自分は、器と共に全国を飛び回っていたのであった。

 

さて前置きが長くなったが本日久々の「ホテルぼっち飯」を味わっている。

ここは双葉町の隣の浪江町にある宿泊施設「いこいの村なみえ」のコテージである。立派なキッチンと食器数点も付属しており、ぼっち飯の舞台としてはかなり充実している。復興事業などでの長期滞在を意識して作られているのだろう。コテージなのでプライベートもしっかりと守られ、ビジネスホテル等に比べて居心地はかなり良い。ちなみに1泊5千円ナリ。連泊でも料金は変わらないので、HPの料金表を見る際には注意が必要である(連泊=半額と勘違いしやすい(2021.4時点))。BBQも可。

 

 

さて、ぼっち飯を成功させるには当日朝からの綿密な計画が必要である。今回のぼっち飯の条件を以下にまとめる。

 

1.現地は今復興の真っ最中であり、住民及び商店が極端に少ない。宿泊施設近辺で食料入手可能なのは小さめのイオンスーパーのみである。

2.「いこいの村なみえ」は二人で利用することはあったが今回は初めてシングルで利用する事になる。シングルルームがどの様なものか想像がつかない。あるべき備品が無い(コップ・ポット等)事も考えられる。

 

結果的に2は杞憂に終わったのは上記の通り。問題は1である。

私の中でイオンスーパーの位置付けは、「他に選択肢が無い時、仕方なく行くスーパー」というものである。とにかく安さばかり追求している印象を持っている。商品の質が低い。人生の80%を「飯を如何に旨く喰うか」に費やしている小生としてはエンゲル係数などいくら跳ね上がっても構わないと思っている(というとヨメが烈火のごとく怒るのであまり言わない様にしている)。

地元の食材を持っていくという手もあるがそれでは塩竃に居る時と何も変わらない。しかし現地は地物を売る店もない。そこで思いついたのが常磐道を降りる手前にある「南相馬鹿島SA」という衝撃的な名前のサービスエリアである。

 

南相馬鹿島。

最初に常磐道でこの案内を見た時は目を疑った。何しろ看板に「馬鹿」と言われたのは初めてだったからだ。それも民間ではなく、国の特殊会社のものである。しかし、良く見てみると、私が最初に思った

南相・馬鹿島(なんそう・ばかしま)という読み方などある訳なく、

南相馬・鹿島(みなみそうま・かしま)が正式の読み方なのは言うまでもない。しかしここに「馬鹿」という漢字が隠れている事をNEXCO東日本企画部(あるかどうか分からないが)の職員及び部長(いるかどうか分からないが)は気が付かなかったのだろうか?もしかすると漢字の「馬鹿」を誰も知らなかったかもしれない。それこそ馬鹿である。日本の漢字の奥深さを味わえる日本人が激減している現れの一つかも知れない。

 

さてその衝撃的名称のSAならば、地元福島の食材が置いてあるに違いない。ここで数点仕入れていくプランAが立案された。現地イオンスーパーでマシな食材数点と地酒を買うというプランBと合わせて、計画は完璧かに見えた。

まずは南相・馬鹿島SAにて地元名物「イカにんじん」と「あん肝の味噌漬け」を購入。酒飲み丸出しの買い物である。ここまでは良かった。

除染業者とも仲良くなり取材も順調に進み、良い気分でイオン浪江店へ。ここにはあのうんざりするトップバリュー商品だけでなく、地元漁港から揚がった海産物もある。早速しめ鯖とタコ刺しを購入。前菜で必ず野菜を食べる習慣があるのでサラダも購入。オリーブオイルとレモンソルトが付いているものを買った。ドレッシングは野菜にかける他ないが、塩と脂があれば大抵のものは食べれる。長年の経験からの知恵であり、そしてこれが後に活躍する事となる。

 

あとは地酒だ。酒類の販売コーナーへ行ってみる。

今この地域には地元住民よりも多くの建築作業員や廃炉作業員が滞在していて、その人たち向けの商品が多い。自分も職人達の事は良く知っているので、4ℓ入りの焼酎や発泡酒が大量に積んであるのを「さもありなん」と横目に見つつ、日本酒コーナーを探す。

「?」・・・無い?

・・あ、あったあった。こんなに小さいスペース? 嫌な予感がする。

やはり予想通り、そこは日本全国どこでも置いている安酒と、良く分からないが地方のとにかく安い酒を細々と置いているコーナーであった。そこそこの地酒で少しばかりの贅沢をしようという私の希望はここで無くなってしまった。

私の知っている職人達の多くは基本的に高い日本酒は飲まない。焼酎、発泡酒が基本である。彼らにとって日本酒は贅沢品で、そんなお金があればパチンコに注ぎ込むわい!という考えである。

読みが甘かった。最近はイオンでも高級酒を置く様になったので安心していたのだが、浪江はまだそういう時期では無いのだ。しかしそこは年の功、安酒でも「使える」ものがあるのだ。

菊正宗「しぼりたてギンパック」。2019IWCアワードセレモニーにて、SAKE部門最優秀賞 「グレートバリュー・チャンピオンサケ」 を受賞した驚異の紙パック酒である。口当たりと香りが良く、食べ物の味を邪魔しないので何にでも合う。今日の様なやや汗ばむ日はロックでもいい。今日のサケはこれでいこう。

昼間の取材で多少上がったであろう己のシーベルトをサウナと水風呂で洗い流し、いそいそとぼっち飯の準備をする。と、気づいた。

「醤油が無い!」 先程偉そうな事を宣(のたま)っていた本人が、「ないないシリーズ」第2位のミスをやらかしてしまったのである。しかしここでも年の功。こんな時に活躍するのが必要以上に貰ってきたワサビの小パックたちと、サラダについてきたオリーブオイル&レモンソルトである。

しめ鯖の臭みをワサビで中和すれば、もともと付いている酢の味で十分食べられる。タコにオリーブオイル&塩はイタリアではお馴染みの黄金の組み合わせである(はず)。それでも醤油が欲しければ、同じ大豆発酵食品であるあん肝味噌漬けの味噌から醸し出されたたまりがある。

これで、多少の波乱はあったものの無事にぼっち飯を楽しむ事が出来た。やれやれ。読む方もご苦労様でした。

 

この様にホテルぼっち飯の醍醐味は、現地ならではの突発事項に如何に対応するかという事と、あるものを巧みに組み合わせて問題を解決していく楽しさにある。皆様のホテルぼっち飯のご参考になれば幸いである。

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コメント: 1
  • #1

    ファームゴッホ(伊藤修悦) (火曜日, 06 4月 2021 12:05)

    除染作業立会いお疲れ様でした(^_^;)
    ホテルぼっち飯��興味深く読ませて頂きました!

    私も会社員生活40年近く働き蜂のように働き�(多少はサボった(^_^;))
    ポッチ出張を経験した身として現地での食材調達やホテルでのぼっち飯�
    思い当たる節がある随所にありました(笑)�

    次回立ち会いは敷地周りの表土を削ぐ作業を見たいものです!