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やっと、実践編。

 

さあ、始めようか。

キッチンの窓は東に向いている。視線の先には塩竈の海。6階の部屋で良かった。

海原から太陽が顔を出し、シンクの上に光線で影絵を描く頃、始める。

 

3枚のバットを広げ、小さな布巾を水で湿らせて準備完了。大きな布巾は乾いたまま、湿らさない。この布巾は中川政七商店の「花ふきん」で小松菜の染料で染めてある。他にも赤かぶ・梅の実等あり、その美しい色合いは見る者の視線を優しく吸い取ってくれる。

まず表層のぬかを隣のバットに移す。それからぬか漬けを掘り出していき、奥のバットに取り出す。白いバットには中層のぬかを入れる。

3枚のバットを使うのは狭いキッチンを効率良く使う為である。バットを移動すればそこにいつでも空間が出来る。

シンクは常に清潔に。1粒のぬかもこばさない様になれば名人である。

ぬかを左右に寄せながら、底層のぬかをバットに移し、表層だった部分を一番底に入れる。

 

ぬか本来の香りとは別に、不快な匂いを発生させる菌があり、好気性細菌が表層に、嫌気性細菌が底層にそれぞれ発生する。それを入れ替える事で、不快細菌を死滅させるのである。

取り出したぬか漬けはそのまま脇へ移動させてスペースを開け、明日の分の漬け込みに入る。今日はキュウリと小松菜。どちらもぬか漬けの定番である。

 

材料に塩を揉み込んでぬか床に埋めていく。キュウリをぬかの中にズブズブと押し込んでいくのは、どろんこ遊びみたいで楽しい。

「いい歳こいたオッサンが何を言う」とお思いだろうが、ぬか漬けの楽しさの一つはこの「どろんこ遊び感覚」なのだ。大人達の間で「泥団子作り」がブームになっているのは、どろんこを手で捏ねる感覚が何も悩みが無かった子供時代を思い起こさせ、無心に帰れるからである。現代医学でも、どろんこのウニャウニャ感はリラックスホルモンであるセロトニンを発生させる事が分かっている。

 

私も今は毎朝この「ぬか遊び」をしないと落ち着かなくなってしまった。中毒であるが、ぬかは毎日かき混ぜる必要があるので都合の良い中毒である。おまけに肉体と精神が健康になる。私にとってぬか漬けを漬けない理由など無いのだ。

 

容器の縁はカビが発生しやすいので常に清潔にしておく。

ちなみにこの容器は野田琺瑯製の1kg用で、冷蔵庫にもピッタリ収まる大きさになっている。夏場や旅行の際にこの大きさは有難い。

 

さて、容器に蓋をして定位置に置いたら、いよいよ一番のお楽しみの盛り付けである。

丁寧にぬかを洗い落とし、乾いた布巾で水気を良く切る。

今日はキャベツのみ。盛り付けの課題としては上級編である。種類があれば華やかさを演出できるが、これ1種類しか素材がない。しかもキャベツの見た目は何のアクセントも無く地味である。

 

新キャベの色が引き立つピンクの皿を選ぶ。代官山で手に入れたイイホシミコの限定品である。それとは別に長方形の刺身皿にも盛り付けて、皿数でバリエーションを出すと言う姑息な手段も使わねばなるまい。

と、言うわけで、ウチの女将軍が眠い目をして起き出して来る前に「おめざ」の準備が無事整った。

コーヒーとスイーツの合間にぬか漬けの一時は、「ぜんざいに柴漬け」の法則に則った正しい食べ方と言えよう。

 

若おかみ殿、これで宜しいでしょうか?