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5.5坪の聖地。

 

「世界の亜凛」認定。

「ここは、『聖地』ですね。」

亜凛さんが落ち着いた声で言う。いや、亜凛さんが落ち着いていない時は無いのだが。

丹田から発生するその声は、淀み無く確信に満ちている。やはり、そうらしい。

 

「あそこに入った瞬間、ふわぁーってなって、『おーっ』ってなってスゲー、と思った。」

長嶋茂雄を上回る超感覚派の彼女は、巧みな擬音によってこの場所を描写する。良く分からないが「スゲー」場所らしい。

 

「・・・・・・・・」

写真の彼は裸足になって地に足を付けた時から地球との交信状態になり、隣の亜凛さんの声も聞こえない様である。

 

 

2021年5月7日午前10時30分。

新宿へ出発する直前の「亜凛塩竈竜宮茶会」の面々の感想である。

 

「塩竈はよく物が持っていかれるんですけど、ここに置いたものは半年放置しても盗まれないんですよ。」と言うと亜凛さんは、

「結界が張られてますから。」と涼しい顔で言う。見える人には当然に見えるらしい。張った覚えは、ない。それか無意識に結界を作っていたのかも知れない。

 

ここは塩竈でも最も煩い場所の一つで、国道45号線の側にあり、しかもフェンスの外は駅への通勤路になっていて人通りも多い。畑のすぐ横を、買い物籠を持ったおばちゃんや、ネクタイ姿のサラリーマン、近くの海産物加工工場に通う自転車の外国人など、様々な年代と職種と人種の人々が通り過ぎていく。中には横目で畑を見たり、立ち止まって話しかけてくる人も多い。

 

そんな賑やかな場所にありながら、ここに入ると不思議と心が静まり、いつまでも居たくなってしまうのだ。私もよく朝から半日くらいをここで過ごす。土いじりをしたり、本を読んだり、友人と電話したり、朝ごはんを食べたりビールを飲んだりボーッとしたり瞑想したりしている。何をやっても気持ちがいい。

賃貸マンションに隣接しており、玄関を出て15歩と立地も申し分ない。自分たちの部屋から見下ろす位置にあり、気になったら部屋からいつでも見える。最高の場所である。

 

「おー、こんちはー!」道路を隔てた向いの家の前から、隣のおばちゃんが大声で挨拶する。

「おーう!」こっちも大声で返す。道路を渡りながら「今日は賑やかだねぇ!」とまた大声を出す。このおばちゃんの声はいつも町内に響き渡っており、彼女が誰かと立話しているとその内容は町内にだだ漏れとなる。陽気で鼻っ柱が強く、やり手の商売人でもある。こういう人が居るから、地方暮らしはやめられない。

 

去年あるきっかけからこの畑を無料で借りられる事になったのだが、それ以来もうこの畑の無い生活は考えられない程の存在となっている。ここで様々な人に出会い、私は「ご近所付き合い」がいかに人間に根本的満足を与えるかを知り、現代社会の問題の多くが「ご近所付き合い」が失われた事に起因する事に気付いたのである。

 

「ご近所付き合い」と聞くと大抵の人は「煩わしい」とか「トラブルの元」という印象を持つ様だが、ご近所付き合いの質はその人間が「どれだけのエゴを持っているか」で決まると言っていい。エゴが強ければ何をやっても上手くいかず、当然ご近所付き合いもトラブルだらけとなる。

しかし逆にエゴが少なければ、ご近所付き合いは天国となる。町内全体が自分の実家みたいになり、土地が部屋となるのだ。

わざわざ実家へ帰らなくても、すぐ隣に優しいおじいちゃんやおばあちゃん、世話焼きのおばさん、水商売のちょっと影のあるお姉さんなどが現れ、身内になるのだ。

またご近所付き合いは、生々しい地元情報の宝庫でもある。これは極めて重要であり、「真の地元情報」を知っているのといないのとでは、その土地への根付き方に雲泥の差が出来る。

 

「前から言っていた、小樽から来た座禅の先生だよ。」彼女の年代に「ヒーラー」とか「スピリチュアル」とか言っても通じないので、亜凛さんは「座禅の先生」と言う事になっている。

「へー! 男かと思った!」先生が女性である事に驚いている。別に亜凛さんの外観が男みたいだという訳ではない。

「昨日はねー、亜凛さんと若だんなと一緒にセッションしてねー、凄いんだよー、私は東京、こっちの人は徳島から来たのー!」

超感覚派の彼女の言葉は主語と述語がクロスオーバーしているが、何となく言いたい事は伝わった様で、おばちゃんは「へー!」と感心している。毎日の様に立話をしているが、私が何をやっているかおばちゃんは殆ど知らない。理解の外だろう。

 

そんなこんなで(便利な言葉だ)これからこのFarm Office「いけがき」での様々な出来事をご紹介していく予定です。

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コメント: 2
  • #1

    若おかみ (土曜日, 15 5月 2021 17:38)

    お茶とおやつを持って行って畑の若だんなを眺めていると、ご近所さんに「奥さん良いねえ!」と言われます。夫が土いじりをしてるのがそんなに良いかな?

  • #2

    若だんな (日曜日, 16 5月 2021 10:44)

    夫が土いじりをしてるのが良いんじゃなくて、
    土いじりをしている夫が良いんじゃないの?