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塩竈 春の陣

戦いの時は来た。

去年、初めて畑を手に入れた時に失敗した事がある。

 

コロナ禍で在宅の人間が大幅に増えた為、一時的に「園芸大ブーム」になり、塩竈・多賀城・仙台南地区の「きゅうりの苗」が一本も無くなってしまったのである。きゅうりの苗を探して半径30km圏内のホームセンターをしらみつぶしに調べたが、「今年はもう入荷しません」と言う返事ばかり。ようやっとアマゾンで見つけて入手した、と言う苦い思い出がある。

 

園芸初心者が犯しがちな失敗であった。

「苗には足が生えていると思え」という格言もある位だ(うそ)。

 

「再愚許さず。我、次陣は勝利せん。」

 

の誓いを立てて望んだ今年の「苗争奪戦」であるが、結果的には全勝したと言っていい。

ここ塩竈は家庭菜園をやっている家が多く、庭に本格的な畝を持つ大きな畑がある家も少なくない。「まだ苗が十分ある」と思って油断していると、次の日はもうごっそり無くなっているという事が珍しくない。大きな畑のある家では、一遍に10株位平気で買っていくのである。

 

そしてここ陸奥(みちのく)の地では、苗争奪戦のピークはゴールデンウィーク期間中である。よって、GWに突入する前に勝負してしまうのが一番良い。

 

私は上記の見通しを立てて、GW前半までにほぼ苗の買い物を済ませていた。結果的にこれが大正解であった。

私がピンポイントで狙っていた「白のアフリカンマリーゴールド」や「白のスプレーバラ」、「鈴なりブロッコリー」等は、GWが終わる頃には全てのHSから姿を消していたのである。

 

ただし、一つだけ大失敗しかかった事があった。

 

再び、「きゅうりの苗」である。

普通のきゅうりの苗はいくらでもHSにあるのだが、私は今年「四川きゅうり」を植えようと思っていた。このきゅうりは昔ながらの痛いイボイボが沢山あり皮も硬く、若い人には向かない硬派なヤツであるが、これを漬け物にすると最高の味となる。たまにデパ地下等で売っているが、一般のきゅうりの倍はする高級品である。

 

GW前半頃にネット通販を調べ初めて、驚いた。

全て、とっくの昔に売り切れていたのである。こんなに人気があるとは!

 

しばし絶望に打ちひしがれた後、ゆるゆると諦めの波動が立ち昇ってくるのをどうしようもなく味わっていた。

「今年も、普通のきゅうりでいくか・・・」溜息と共に気持ちを精算しようと思ったが、どうしても諦め切れない。

気晴らしにまた別の苗でも見に行こうと思い、アルトワークスに乗り込む。

 

・・・ふと予感がした。

気がつくと、いつもとは逆方向の北に向かってハンドルを切っていた。たまにしか行かないHSに久々に行ってみる気になったのである。

 

HSに到着し、きゅうりのコーナーを見て廻る。どこでも見かける、「いつものヤツ」である。

「まあ、四川きゅうりなんてマニアックなものHSにある訳ないよなぁー」と思いながら歩いていると、きゅうりコーナーの一番端の片隅に「いつもと違うヤツ」がいた。

「四川? きゅうり、『ケンシロー』? これって・・・!」

そのイボイボ、バリバリと硬い食感、「オススメは漬け物」、まさに四川きゅうりそのものの特徴である。しかし良くみると「四川」ではなく「短形四葉胡瓜」とある。

見た目も食感の特徴も四川きゅうりと違わない。調べてみると、「短形四葉」を改良したのが「四川」だというが、その違いは微妙な様だ。これはもう目的を達成したと言って良かろう。しかも通販の値段より4割以上安い。

「ケンシロウ」約20株は、その異彩を放つ名称とラベル、イボイボの手強い外見で一般客からは敬遠されているらしく、ラベルの勇ましさとは対照的に、コーナーの片隅にひっそりと陳列されていた。

 

これはもう、神がわたくしに与え賜うた千載一遇のチャンスに違いない。

 

そう確信した私はカゴいっぱいに「ケンシロウ」を詰め込み、揚々とレジへ進んだのであった。

きゅうり苗18株、一気買いである。

今年の我が Farm Office「いけがき」の畝部分はきゅうり8割、トマト2割ときゅうり偏重型となった。

去年トマトが熟れすぎて食べる時期を逃したのが多かった事に加え、なんと言っても今年から始めた「ぬか漬け」の材料としての期待が地球規模で膨らんでいるからである。ちなみにマリーゴールドは美観兼きゅうりのコンパニオンプランツとしてケンシロウ達に寄り添っている。

 

あのイボイボでバリバリのケンシロウがぬか床から姿を表すのが今から楽しみで、ワクワクが抑え切れない。

「イボイボ・バリバリ・ワクワク」のツイン・オノマトペ3連単である。当たれば10万馬券間違いない(意味不明)。

 

You は Shock!

 

柵にズラリと並んだきゅうり達を前にして、大声で叫ぶ自分の近未来像が見えた。