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おじさんとマイクとホヤのはなし

 

本日天気晴朗ナラビニ波穏ヤカナリ。

「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊はただちに出動これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し。」

 

とは、日露戦争において当時世界最強のロシア・バルチック艦隊を殲滅し歴史的勝利に導いた伝説的名参謀、秋山真之の開戦前の言葉として有名だが、この日の我々は

 

「台風退散すとの報告に接し、亜凛艦隊はただちに出動、島へ渡らんとす。本日天気晴朗ならびに波穏やかなり。」

の状態であった。何しろ台風はどこへやら、この快晴である。

 

前日の雨が空気を洗い、視界はどこまでも明瞭。

空の蒼と海の碧に囲まれて戦艦三笠ならぬ連絡船アルティア号はその巨大なパワーを持つエンジンをほぼ全開にし、船首をやや持ち上げたウィリー状態で快調に21ノット巡行を続けている。時折波しぶきが窓を洗い、流れ落ちる海水の間から船に並走(並飛行?)するカモメの姿が見える。

 

いい気分だ。

 

・・・この、絶え間なく続く船内放送さえ無ければ。

 

前回下見の為金華山に渡った時には無かったのだが、今回は船が出港すると同時に乗組員の一人である「案内おじさん」がマイクで喋り始め、注意事項の連絡かなと思いつつ聞いているといつまでも喋るのを止めず、結局下船まで話し続けたのであった。

その内容は確かに有益な金華山情報が沢山含まれていたのであるが、その合間合間におじさんの人生観やら教訓的なお話が入り込みどうも若干「鼻につく」のであった。

金華山情報を頂いたらそのおじさまに感謝しつつ退場して頂き、ゆっくり海と空と空気を楽しませて頂きたいと思ったが、どうも「案内おじさん」は「マイクを持ったら離さない」タイプの人らしい。

 

日本の家庭においてはたまに「1日中TV点けっぱなし」という家庭があり、何を隠そう私の実家もそうなのだが、常に何らかの「言葉」が空間を埋めていないといたたまれない人、というのは一定数存在する。こういう人たちが一番恐れるのが「沈黙」である。

「集団が沈黙している時、その集団の持つ最も本質的な特質が現れている」とグルジェフは言ったが、沈黙していても何となくお互いの繋がりを感じられる集団もあり、逆に沈黙した途端に不穏な空気が流れる集団というのも存在する。そしてどちらかと言えば後者の方が多いのが現代の特徴である。現代においては、沈黙は「不穏のサイン」なのだ。

この「案内おじさん」はその辺りの心理を良く心得ており、その絶え間ないおしゃべりは「不穏のサイン」が現れるのを避けるべく行われた彼の良心かも知れない。

 

・・・という事は全然無く、単にご自分に少々酔っていらっしゃるご様子とお見受けしたのであった。ヤレヤレ。

アルティア号が着岸し、もやい綱がビット(係留柱)に巻き付けられる。

3個の台風をものともせず、「案内おじさん」の声を背中に受けながら、「選ばれし」我々は無事に金華山へと足を踏み入れたのであった。

 

空は、絵に描いた様な深いスカイブルー。

海は、底が見通せる位透明なエメラルドブルー。

 

サスガ金華山は聖地であるだけでなく国定公園にも指定されているだけあって、その風景も国定レベルの貫禄十分であった。

 

「わーい!」

「おおぉ!」

「うわー!」

「ひょーぅ!」

 

我々は甚だ具体性を欠く感嘆詞を連発し、これだけ聞いてもどこがどうすごいのか伝わらないと思うが、それはそれで良しとしよう(するな)。写真の「うかれポンチ」状態を見れば我々の心境が伝わるであろう。

 

そういう意味も含めて、今回友人の寺岸カメラ様においで頂いたのは大正解であった。ちなみに今回掲載している写真はほぼ彼の撮影である(右下ロゴ参照)。私に対する彼の態度はほぼ「猿扱い」だが、こと仕事となると別人格が立ち上がり、その場の雰囲気をどんどん上げていくのである。やはりプロは凄い、とおだてておこう。

さあ、昼食である。

この弁当は主催者の不手際にも関わらず、プリさんの活躍により我々の目の前に鎮座マシマシている。ありがたさもマシマシである。

 

しかし正直この弁当には、あまり大きな期待は持っていなかった。宿で昼食を頼む事は可能だが、「夜と全く同じメニューしか出せません」という宿泊所の都合によりやむなく女川港のスーパー「おんまえや」にて予約調達したものであった。

 

「おばちゃん、遠くは四国からお客様が来るから、何か女川らしいものを入れて美味しいやつを頼むよヒトツ!」と担当のおばちゃんに言ってはおいたのだが、「所詮はスーパーの弁当」と甘く見ていたのである。

 

プラケースがちょっと味気ないが、これも致し方なしと思いつつ食べ進めると、各所から「美味しい、美味しい」という声が上がってきた。本当に美味しいんである。これは予想外であった。


一品一品に女川のおカアちゃんの年季が感じられ、シンプルだが丁寧な作りの弁当であった。特に皆が関心したのは「ホヤフライ」である。

最初は鶏肉の唐揚げと思って食べ始める。

「ん? 随分柔らかいな・・・ 繊維質でもないし・・・」

衣を少し剥がすと、宮城県ではお馴染みのあのお姿が現れた。

「これ、ホヤだ!」私が宣言すると、周囲がざわついた。

 

「ほや? 何?」

「えー、知らないで食べちゃった。鳥かと思った。」

「何だろうとは思ったんだよねー。」

 

「おんまえや」のおばちゃんは、私の「女川らしいもの」という要望を忠実に実行し、「ホヤのフライ」という宮城県内でも珍しい料理を入れてくれたのである。

おばちゃんありがとう。そして甘く見ていてごめんなさい。

 

ホヤに関しては色々なところで色々と言われているが結局はこの味が「好きか、嫌いか」という点に集約されると思われる。

 

そして、「ホヤ嫌い!→ホヤ大好き!」 へと移行した者は、その後の人生を「ホヤ伝道師」となって生きていく事になる。宮城県にはこの「ホヤ伝道師」が推定15万人は居ると言われており(どこで言われているかは不明)、宮城県に来られた他県の方からの「ホヤ被害」の報告が後を絶たない。

とにかく宮城県人はこのホヤを他県の人に食べさせたくてしょうがないのだ。

 

宮城県においては「ホヤを食べないヤツは日本酒を飲むな」という言い伝えがあり(うそ)、夏の日本酒の席で「ホヤなし」というのは考えられない事となっている。

私も20才を過ぎてやっとホヤが食べられ大好きになった「ホヤ伝道師」の一人であり、夏に他県から来た友人はほぼ間違いなく「ホヤ被害」に会っているはずである。

しかしこの「ホヤフライ」は鶏肉のフライと勘違いしてしまう程「くせ」が抜けており、これを知っていたら私の友人たちも「ホヤ被害」に会う事はなかったであろうと思われる味であった。

 

食後は参加者の一人、しょうこさんに持ってきて頂いたお菓子を食べながら亜凛さんのお話を聞く。

亜凛さんの話はいつも全日本、全地球、全歴史規模なのでとても興味深く面白い。しかも全部実体験の裏付けがある真に迫る話ばかりである。皆引き込まれる様に聞いている。

 

しかしこの時何が話されたかを私の猿脳は記憶していないのであった。誰か教えて下さい。

つづく

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コメント: 2
  • #1

    若おかみ (月曜日, 06 9月 2021 16:55)

    下見で行った時、視界の端に引っ掛かった「おんまえや」にビビッときました。このスーパー、タダモノではない。
    気乗りのしない若だんなを引っ張り店内へ。やはり…ここの惣菜、タダモノではない。
    買って食べたわけではないけれど、料理をする者には分かるのです。
    なので昼食問題が浮上した瞬間、私は反射的に「おんまえや!」と叫びました。思った通り大好評。またお世話になりますね❤️

  • #2

    若だんな (火曜日, 07 9月 2021 22:29)

    ハイ、「料理をしない者」代表です。
    ナメててすみません。