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美とは何か



美について幾万の言葉が 

あちらこちらで咲いているが

それは彼の人々に任せて

今は美を知の皿に乗せてみようか 


コーヒーブレイクは済んだ?

・・・さて。


昆虫は美を持たず

動物も美を持たない

例え彼ら自身が美であっても


ウェッジウッドの皿に

美しく配置されたオードブルも

フードボウルの中に

無造作に投げ込まれたそれも

昆虫や動物にとって違いはない

ウェッジウッドは食べにくい程度 


でも、あなたにとっては?

言うまでもない


人間だけが美を見分ける

人間だけが美に価値を持たせる

人間だけが美を目指して歩いてゆく 


それは、そう創られたから




むかしむかし 

時間が始まるよりもむかし


我々の創り主が

この残酷な世界に

我が子らを送り込む前に 


その心に

見えないコンパスを埋め込んだ


これから数え切れない試練に晒されたとしても

いつかここへと帰れるように


それから彼は

我らをここへ放り投げた


こうして我々は肉体を持ち

それを維持すること

子孫を残すこと以外の

不思議な欲求を持つ命となった


帰りたい


全ての人間が帰りたがっているが

どこへ帰るのかは誰も分からない


でも、帰りたい


昆虫は帰らない

動物も帰らない

ここが有ればそれでいい


でも、人間は帰りたい


それが何処かは分からないが

その方向だけは分かる


だから我々は

自分でも分からない衝動に従って 

朝焼けの空を見て我を忘れたり

陽に輝く雨上がりの並木道を

ゆっくりと歩いてみたりするのだ


それはきっと故郷を思い出しているのだろう

一度も見た事のないふるさとを


そしてそれは

我々全てのグレート・グランパからの

懐かしい呼び声

ここへ帰っておいでと

お前の本当の故郷はここなのだと


だから我々は

本物の美に出会うと


ここを忘れ

時間を忘れ


ここでないどこか

今でないいつかへ 

少しの間帰るのだ


ポケットをひっくり返したみたいに

我々の存在は裏返り

普段隠されていた

心の奥のエッセンスが

肉体と心配事を包み込む


その時我々は魂となり

少しの間

本当の現実を垣間見る


我々に美の感覚があるのは

我々の故郷が

美の極致である証

本来の我々が

限りなく美しいものであることの証


これが魂のスタンダード

このコンパスに導かれない限り

我々の不安が消える事はない


それは、そう創られたから


美は目的ではなく

本当の我々へと辿り着く為の手段


だから美は

我々の心の

一番大切な所に隠されているのだ  


あなたが美に心奪われている時は

思い出して欲しい

本来のあなたはそれよりも美しいという事を

本当の故郷はそれよりも美しいという事を


あなたはもっと奢っていい

本当のあなたは

想像出来る全ての美を超えていることを

あなたの本当の故郷は

全ての美が霞むくらい美しいことを


あなたはもっと信じていい

自分の美の感覚が

全てに優先されて良いことを


あなたはもっと笑っていい

この奇妙で理不尽な旅の目的が

ただ帰る為だけだということを


肉体を維持すること

子孫を残すこと

それだけをやっていれば

どんなにか楽だったろう


しかしグレート・グランパは

幾多の残酷な試練を乗り越えた後の

孫たちの顔が見たいらしい


それで、そう創られたのが我々


その為のコンパスは

常に美の方向を指す


我々の視線が

肉体を維持すること

子孫を残すことから離れて

美のコンパスが指し示す方向を見始めると


この残酷な生きる為の日常の中に

全く別の

透明な階段があることに気付くだろう


美のコンパスに従って

その階段を登り始めよう


あなたは知らないかもしれないが

あなたの魂は知っている


その階段の先に

我々の本当の故郷があることを


転載自由